活字版と紙型と鉛版と象嵌

活版印刷といえば通常、鉛の活字を1本1本組んだ活字版かつじはんを使い印刷するイメージを持っている人が多いようですが、鉛の活字は意外に柔らかく平均7000枚ほどの耐久性です。(印刷職人の腕によっても違いは出るそうですが…)

活字版

活字版(原版)

名刺・はがき・校正ゲラのように数枚から数百枚の印刷には問題ありませんが、本格的に部数のある物となると活字がすり減ってしまいます。かと言ってもう一組・二組と誤植なく組み上げる事は非効率です。そこで登場するのが紙型しけい鉛版えんばんです。

紙型

紙型

紙型とは特殊に作られた厚みのある紙に湿気を持たせ、活字版を型押しします。

次に乾燥させた紙型の表面に鉛を流し、鉛版を作ります。鉛版も活字と同じ材質なので、耐久性には乏しいのですが、同じ紙型から2枚の鉛版を作ったり表面をメッキ加工する事により、印刷への耐久性を格段に向上させる事ができます。また紙型にカーブを付けた状態で鉛版を作る事により輪転印刷用の版を作る事を可能にしました。

鉛版

平版用鉛版と輪転用鉛版

活輪版

輪転用に紙型にカーブをかけて鉛版を作る

しかし鉛版となり1枚になった版は活字組み版の時と違い文字の差し替えができません。刷了後に見つかった誤植はもとより奥付の日付訂正はどうしたのでしょうか。

そこで登場するのが、象嵌ぞうがんと呼ばれる方法です。

まず、訂正部分の文字を活字で組み版します。次にその継ぎ組を紙型にし、鉛版にしておきます。元の鉛版の訂正部分に象嵌機を使い穴を開け、小さな継ぎ組鉛版を埋め込むようにはめ込み、接着すれば訂正の完成です。象嵌訂正した鉛版から紙型を作る事もできます。(1行・複数行訂正の場合もあります)

象嵌

象嵌部分

活字版・鉛版は数年に渡る増刷のための保管には重量があり、その上場所を取るので適していません。一度紙型にしておくと、ヒモで縛る事もでき、持ち運びや保管が容易になり、再版の発注時に鉛版を作れば印刷が可能になります。

一般にはあまり知られていない紙型ですが、寿印刷活版展示室で見学する事ができます。

また、長野県の亜細亜印刷(株)様のホームページのアジア活版資料室では、象嵌機・鉛版鋳込み機を見る事ができますので合わせてご覧ください。